事務所ブログ

2012.08.30更新


前々回
、子供のいない夫婦について、
夫の所有する先祖代々の家と土地を、
夫の死亡後は、妻が住むために引き継ぎ、
妻の死亡後は、弟の長男に引き継がせるためには、

①夫の兄弟姉妹や弟の長男は、妻の相続人ではない
②夫が妻の死亡後、遺産を誰に引き継がせるか
 指定することはできないと考えられる
③妻が「夫の弟の長男に遺贈する」と遺言を書いても、
 後に遺言を書き替えられたりすると実現しない
などの問題点があるとお話ししました。

そこで、夫の生前に、先祖代々の家と土地を
確実に妻→弟の長男と引き継がせるために考えられるのが、
前回、しくみを説明した「信託」の利用です。


1 信託契約

まず、夫を委託者兼受益者、弟の長男を受託者
信託財産を家と土地、目的をその管理として、
夫と弟の長男で信託契約を結びます。


また、夫の死亡後は、妻が受益者となること、
妻の死亡後は、信託は終了し、
家と土地は弟の長男が取得する
(弟の長男を残余財産帰属者とする)ことも
契約で定めておきます。

この場合、受益者の受ける利益は
家に住んで、土地を使用することです。
信託によって、家と土地の所有権は弟の長男に移りますが、
夫婦は家に住んで、土地の利用ができます。


2 夫の死亡後

夫の死亡後も、妻は2番目の受益者として、
家や土地を利用する利益を受けることができます。



3 妻の死亡後

そして、妻が死亡した時は信託が終了して、
家と土地について弟の長男が完全な所有権を取得します。


夫が生前に家と土地を信託することで、
自分の死亡したときのことのみならず、
妻の死亡後の財産の引き継ぎ先を決めることができ、
しかも、自分も妻も生きている間、家に住み続けることができるのです!


弟の長男は、信託財産である間は、目的以外のことはできませんので、
所有者だからといって、家と土地を勝手に売却したりできません。

もし、弟の長男に借金があった場合、
この家と土地は弟の長男の所有であるにもかかわらず、
信託財産である間、
弟の長男の債権者は、これを差押えることはできません。
(多額の借金のある者が受託者としてふさわしいかは
検討する必要はあるでしょう。)

信託には、ほかにも活用方法が考えられます。
また、ポイントとなる特徴がいくつかあります。
次回以降、特徴をまとめて整理したり、
他の活用方法についてお話ししたいと考えています。

投稿者: 司法書士 本多寿之

2012.08.28更新

前々回からの、子どものいない夫婦について、
先祖代々の家と土地を、
妻→弟の長男と引き継がせるために
信託を利用することが考えられます。
今回は信託のしくみについて、
一つの例で説明してみたいと思います。

1 信託のしくみ


信託とは、委託者が自分の財産を受託者に移して
受託者が受益者のために、決められた目的したがって
財産の管理・運用・処分などを行うというものです。


信託は、次の方法で設定されます。
①委託者と受託者の契約
②委託者の遺言
③公正証書など書面での意思表示(委託者=受託者の場合)


2 契約による信託


わかりやすい例として、
契約で信託を設定した場合で説明します。

高齢となったある人(父)が、自分の所有する賃貸アパートを
自分の長男に管理してもらうために
自分を委託者、長男を受託者、
アパートを信託財産、
目的をアパートの管理として
長男と契約で信託を設定したとします。

また、アパートの家賃収入を自分の生活費にあてたいので、
自分を受益者にしたとします。


信託により、アパートの所有権は長男、つまり受託者に移ります。
その後、アパートの入居者と賃貸借契約を結ぶ、
アパートの修繕を業者に依頼する、
家賃の振り込まれる銀行口座から出金するといった
アパートの管理に必要な行為を
長男は
自分の名前で行うことができます。
アパートの所有者なので当然です。

しかし、信託の目的はあくまでアパートの管理ですので、
長男は所有者だからと言って、
アパートを勝手に売却することはできません。

長男はアパートを管理して、
受け取った家賃から、かかった費用を引くなど
信託契約での取り決めに従って、
受益者でもある父に配当をします。

もし、父が認知症などで判断能力が衰えても、
アパートの所有者は長男ですので、
長男は引き続き、アパートの管理に必要な賃貸借契約、
修繕を依頼する契約などを行うことができます。

もし、信託の目的を
委託者が所有していた不動産の売却としていたのならば、
長男が不動産の所有者ですので、
父の判断能力が衰えても、
不動産の売買契約を有効に行うことができます。


3 受益者、財産の引き継ぎ先の指定


そして、信託の大きな特色は、
受益者が死亡したときに、
別の者が受益者となることを指定することができる点です。


最初の例で、父が死亡したときは、
母が受益者となると信託契約に定めておけば、
父の死亡後は、母が受益者として配当を受けることができます。


また、母が死亡したときは、
信託は終了して、残ったアパート(残余財産)は、
長男が取得すると信託契約に定めておけば、
父、母の死亡後、アパートは完全に長男の所有となります。
つまり、信託終了後に、財産を引き継ぐ者を指定することができるのです。

通常の遺言では、
自分(父)が死亡した後に発生した相続(母の死亡)について
財産の引き継ぎを指定できなかったことと大きく異なる点です。


さて、次回は、子どものいない夫婦について、
先祖代々の家と土地を
妻→弟の長男と引き継がせるための
信託の利用についてお話しします。


ブログ内の関連記事

「子どものいない夫婦 妻のためにぜひ遺言を」

「子どものいない夫婦 妻の相続した遺産のその後」

投稿者: 司法書士 本多寿之

2012.08.25更新

前回、子供がいない夫婦で
夫が自分の財産を妻に相続させたいときは、
遺言を残すことが重要だとお話ししました。

では、遺言で妻が夫の財産を相続した後、
妻が死亡したとき、
その財産はどうなるのでしょうか。


妻の親、祖父母・・・の直系尊属も先に死亡している場合は、
妻の兄弟姉妹が相続人になります。
つまり、夫の遺産のうち、妻が死亡した時点で残っているものは、
妻の兄弟姉妹に相続権があることになります。

もし、夫が先祖代々の家と土地を引き継いでいて、
自分が死亡したら妻に住まわせておきたいと
妻が相続するように遺言を残した場合、
夫の死亡後、妻名義となった先祖代々の家と土地について
妻の死亡後は、妻の兄弟姉妹に相続権があり、
夫の兄弟姉妹には相続権がありません!!
先祖代々の家と土地が他の家のものになるのです。


「家」を中心とするのは戦前の考え方で、
時代錯誤ともとられるかもしれませんが、
先祖代々の家土地を、〇〇家の子孫に
引き継いでもらいたいと考えたとしても、
おかしな話ではないと思います。

夫が、残された妻には安心して住んでもらいたいから、
家土地は妻に相続してほしい、
しかし、妻の死後は、地元にいて親しくしている自分の弟の長男に
引き継いで欲しいと考えたとき、どうすればいいでしょうか?



夫が遺言で、自分が死亡した後、妻が引き継いだ遺産について、
さらに妻が死亡後に引き継ぐ者を指定することは
できないと考えられています。


1つの方法は、妻に「自分が死んだら家土地は
夫の弟の長男に遺贈する」と遺言を書いてもらうことです。
(相続権のない人に、遺言で
遺産を引き継がせることを「遺贈」と言います。)

しかし、遺言は1度書いても、
後から新たな遺言でその内容を変更することができます。
夫の死後、妻の気が変わって遺言を書き換えたら
夫の意志は実現しません。
妻が生きている間に売却することも可能です。
夫の意志の実現は、残された妻次第ということになります。

先祖代々の家と土地を妻→弟の長男と
確実に引き継がせる方法はないのでしょうか?
これについては、次回以降にお話しします。

投稿者: 司法書士 本多寿之

2012.08.20更新

このブログで何度か遺言を作成されることを勧めていますが、
今まで相談を受けて「遺言さえあればな・・・」
と思うことが何度もありました。

その代表例の一つが、子どものいない夫婦の場合です。


配偶者はいつでも相続人になります。
その他に、1 子 2 直系尊属(親、祖父母・・・)3 兄弟姉妹の順で相続人になります。
(詳しくはブログ「遺産は誰のものに?~相続人の範囲1」をご覧ください)

上の例で、夫が死亡し、
夫の親、祖父母・・・も先に死亡しているときは
妻と、夫の兄弟姉妹が相続人になります。
2人で住んでいた夫名義のマンションを
妻名義にしようとすれば、遺産分割協議で
他の兄弟姉妹全員の合意が必要です。

反対する兄弟姉妹がいたとしても、
妻が引き続き居住することは可能と考えられます。
しかし、遺産分割協議が成立しない間、
マンションは妻と兄弟姉妹の共有状態です。
もし、将来、施設に入る資金にするため
マンションを売ろうと思っても全員の合意が必要です。
共有状態は不安定な面があります。
(ブログ「不動産の共有」もご覧ください)

もし、夫が生前「マンションは妻に相続してもらい、
必要なら売却して、老後の資金にして欲しい」と
思っていても、遺言がなければ、
夫の兄弟姉妹の合意なしには実現しません。

遺言で「マンションは妻に相続させる」としておけば、
夫の兄弟姉妹の合意も印鑑もなしで、
マンションを妻名義にすることができるのです。

夫の兄弟姉妹が協力的ならよいのですが、
夫の兄弟姉妹が母親の違う兄弟姉妹で、
夫の生前も交渉がなく
今どこにいるのかも分からない場合は大変です。
ホームページの相続のページ「ケース3 夫との間に子供はなく、
夫には交流のない母の違う兄弟がいる」
にもご覧ください)

父母の一方が同じなら、兄弟姉妹になります。
会ったこともない夫の兄弟姉妹を探し出して
合意してもらい、印鑑をもらう・・・
妻の負担は非常に大きいものになります。

子のいない夫婦の場合、遺言を残すことが、
一方の配偶者のために非常に重要となることがあります。
前妻との間に子供がいるが、
今の妻との間には子どもがいない場合も同様だと思います。

投稿者: 司法書士 本多寿之

2012.08.13更新

お盆になって、お仏壇に
手を合わせているかもしれません。

手を合わせながら、
「もし、親父が死んだらこのお仏壇、
誰が引き継ぐのだろう?」などど、
考えないかもしれませんが、
お仏壇は、他の相続財産と同じように、
遺産分割協議で相続人を決めるのでしょうか?

これについては、民法897条に規定があります。
「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、
慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。
ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が
あるときは、その者が承継する。」

系図(系譜)や、仏像、仏壇、位牌などの祭具、
墓碑など墳墓などは、祭祀(神や祖先を祭ること)を
主宰する地位を受け継ぐ者が承継します。
「前条の規定」とは一般的な相続の効力の規定で、
祭祀財産の承継は、通常の相続財産とは異なることになります。

祭祀承継は次の順序で決まります。
①被相続人の指定に従う
 この指定は遺言でなくても、生前に口頭でしても構いません。
②慣習に従う

①②で決まらない(指定もなく慣習も明らかでない)ときは、
民法897条2項に規定があります。
③家庭裁判所が定める
いきなり、家庭裁判所?・・・

実際でも相続人や関係者の協議で
決定していることが多いのではないのでしょうか。
しかし、裁判例では、協議での決定に
否定的なもの肯定的なもの、両方があります。

現実的には、一般家庭のお仏壇であれば
相続人全員が合意すれば
他に異議をいう人がいないのでしょうから、
問題とはならないでしょうし、
そうされているケースは多いと思います。

そして、祭祀財産は相続財産ではありませんので、
仏壇を引き継いだからといって、
相続財産について、その相続人の
相続分が多くなる、少なくなるということはありません。

祭祀の承継も、現在の主催者の指定があれば
それに従うということですから、遺言と同じで、
必要ならば指定をしてあげておくことが、
残された人のためになるということでしょうか。

投稿者: 司法書士 本多寿之

2012.08.07更新

前回、特別受益について少し触れましたが、
今回はもう少し詳しくお話しします。

特別受益は民法903条に規定がありますが、
その前提として、遺言もなく遺産分割もしないうちは、
遺産は法定相続分により相続されます。
例えば、夫が死亡し妻と子2人が相続人ならば、
妻2分の1 子は1人あたり4分の1となります。
(ブログ「法定相続分のはなし」もご覧ください。)

そして、特別受益とは、相続人に対する遺贈や
一定の贈与については、
被相続人死亡時の財産に加えたものを相続財産とみなし、
遺贈や一定の贈与を受けた者については、
その法定相続分から
遺贈や贈与の価格を差し引くというものです。

もし、Aの遺産が8000万円あって、
相続人が妻と子2人だとします。
相続分はそれぞれ
妻  2分の1 4000万円
子1 4分の1 2000万円
子2 4分の1 2000万円 です。

しかし、子1はAの生前に、
私立の医大の学費2000万円をAから出してもらいました。
一方、子2は大学に進学していません。
この場合、子1が学費として贈与を受けた2000万円は、
特別受益にあたると考えられます。

そこで、相続財産をAの死亡時にあった8000万円と
子1の特別受益2000万円を足した1億円と考えます。
(特別受益を足すことを「持戻し」
足した後の1億円を「みなし相続財産」といいます。)

これで、相続分を計算すると
妻  1億円☓2分の1         =5000万円
子1 1億円☓4分の1-2000万円= 500万円
子2 1億円☓4分の1         =2500万円
(子1の2000万円の贈与はそのままです。)

もちろん、遺産分割協議でこれと違った割合で
遺産を分けることはかまいません。
ただ、協議の対象は8000万円であり、
子1は贈与を受けた2000万円を差し出す必要はありません。

ところで、どのような贈与が特別受益にあたるか、
民法903条は「婚姻もしくは養子縁組のため
もしくは生計の資本として贈与」と規定しています。

婚姻については、持参金、支度金などが考えられます。
結納金、挙式の費用などは該当しないでしょう。

生計の資本については、住宅取得・新築資金、
事業始めるための資金などが考えられます。
通常の生活費は扶養義務ですから贈与ではありません。

例では私立医大の進学資金は該当するとしましたが、
被相続人の資産状況などから判断されます。
被相続人が資産家だった、子がみんな大学に行った
などの場合該当しない可能性もあります。

結局、特別受益に該当するかどうかは、
事案による部分があるのです。

特別受益について、相続人間で見解の相違があり、
遺産分割協議がまとまらない場合は、
家庭裁判所での調停や審判手続きを検討する必要があります。

特別受益の制度の趣旨は、
実質的に遺産の前渡しとなっている贈与を相続財産に加えることで、
相続人間の不公平をなくすことです。

生前に贈与を受けた相続人がいて、
遺産分割に納得いかない場合は、
この制度に該当するか検討されてください。


北九州市 八幡西区、八幡東区、若松区、戸畑区、
小倉北区、小倉南区、門司区とその近郊で、
相続、遺言、遺産分割の相談は
角田・本多司法書士合同事務所までご連絡ください。

投稿者: 司法書士 本多寿之

2012.08.02更新

不動産の相続による名義変更の依頼を受けた際、
必要やご希望に応じて、
不動産以外の遺産を盛り込んで、
遺産分割協議書を作成することがあります。

そんなとき、時々質問されます。
「私、生命保険金を受け取ったんですが、
これって遺産に含めないといけないのですか?」


例えば、夫が生前に被保険者を自分、
受取人を妻とする保険契約を行い、
夫の死亡後、妻が保険金を受け取ったとき
保険金は遺産(相続財産)に含めて考えるのでしょうか?

相続人が妻と子1人で、遺産が5000万円、
妻が受け取った保険金が5000万円のとき、
保険金を遺産に含めると、遺産は1億となり
すでに妻は法定相続分の2分の1にあたる
5000万円受け取ってます。
子が「お母さん、もう2分の1受け取ってるから
残りは全部、私のものね。」と言えるのでしょうか。



この場合、保険金は保険契約に基づき
妻が固有の権利として取得するのであり、
相続により夫から承継するものではないので
相続財産に含まれません。
判例も以前からこのような立場をとってきました。

確かに、
保険金は保険会社から支払われるのであって
夫の財産から支払われるのではありません。
保険金のを受け取る権利は最初から妻にあるのであって、
夫の死亡により妻が引き継いだものでもありません。

先程の例なら、妻は保険金5000万円を受け取った上に、
遺産の5000万円の2分の1を
法定相続分と主張できる・・・しかし、
不公平な気もします。

夫が保険料を払ってきたからこそ、
妻は保険金を受け取ることができたわけです。

そのため生命保険金は、実質的に夫が生前に行った贈与として、
特別受益にあたるとの考えもありました。

特別受益については、くわしくは後日、お話ししますが、
要約すると、相続人の中に、死亡した人から遺贈を受けたり、
生前に結婚や生活の資本として贈与を受けていた人がいた場合
遺贈や贈与を受けた金額を相続財産に組み入れて
相続分を計算する・・・というものです。

しかし、平成16年10月29日最高裁判決は、
生命保険金は遺贈・贈与にはあたらないため、
原則として特別受益にあたらない、としました。


その一方で、判決は
「不公正が・・・到底是認することができないほどに
著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には」
生命保険金は特別受益にあたるともしています。

「不公正が・・・著しい」とは、どの程度なら著しいのか?
結局、事案によるということです。


※ちなみに、相続税の計算では、
 被相続人が契約者で被保険者の生命保険金は、
 相続財産とみなして加算されます。
 民法と相続税法とで取扱いに違いがあることに
 注意が必要です。

投稿者: 司法書士 本多寿之