事務所ブログ

2018.12.13更新

前回の続きです。

 

前回の設例で、信託財産が

収益性のある甲不動産と収益性のない乙不動産であるとします。

 

判決でとられた考え方を設例にあてはめると、

収益性のない乙不動産からは経済的利益を得ることができず、

乙不動産を信託の目的財産に含めたのは、

外形上、Bに遺留分割合に相当する4分の1の受益権を与え

乙不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であった、

なので、この部分は遺留分制度を潜脱する意図であり

公序良俗に反して無効、収益性のない乙不動産について

所有権移転登記と信託の登記の抹消を命じるということになります。

 

A、Bが生存中、乙不動産から経済的利益が得られず、

受益権の評価をAとBのみで考えるのであれば、

乙不動産に対する受益権の評価はゼロとも考えられます。

 

しかし、遺留分の算定において

受益権の評価は第2順位のCも含め判断するべきです。(前述)

そして、第2順位のCが信託終了時に残余財産を取得するのであれば、

この残余財産の取得による利益は含めなくていいのでしょうか。

 

この点ははっきりしていませんが、

受益者が信託財産の利益を100%享受できないことが明らかで、

その死亡後に残余財産が帰属権利者に帰属する場合、

その利益の一定部分について遺留分侵害が生じる可能性があると

考えることもできます。(「信託の理論的進化を求めて」(トラスト

未来フォーラム)の能見善久「財産承継的信託と遺留分減殺請求」

146頁(注12))

 

委託者兼受益者の死亡で終了する(受益者連続型ではない)信託において、

複数存在する委託者の相続人の内の一人のみが

残余財産の帰属権利者となっている場合、委託者の死亡が契機となるものの

残余財産の所有権は委託者ではなく受託者から帰属権利者に移転するので

受益者連続型の受益権の取得と法律構成は異なると考えられます。

 

しかし、この場合、他の相続人は、帰属権利者に対して

遺留分減殺を請求できないのでしょうか。

このことを論じたものを見たことがないのですが、

できなければ、これこそ信託が遺留分制度を潜脱することになります。

 

ですので、遺留分減殺はできると思うのですが、

受益者連続信託になると、途端に残余財産の帰属による利益が

遺留分減殺から切り離されるのであれば

法律構成が異なるとしても、バランスを欠くと思います。

 

前回からの設例に戻って

もし、Cの受益権に残余財産の帰属による利益が含まれるとすると

収益性のない乙不動産の受益権についても、

経済的利益を評価できる可能性があります。

 

(Cに残余財産が帰属する時期が不確定なため

Cの乙不動産についての受益権の評価は、委託者死亡時の

乙不動産の現物としての評価より低くなる可能性はあります。)

 

乙不動産の受益権に経済的利益を評価できるのであれば

収益性のない不動産を目的財産に含めることをもって

信託が必ずしも遺留分制度の潜脱を目的としたとは言えず、

公序良俗違反に当たらないと考える余地があると思います。

※ 判決では残余財産の帰属権利者が誰かは不明です。

 

収益性のない不動産を目的財産とした信託が

公序良俗違反となるのであれば、

収益性のない自宅の管理を目的として

売却を予定していないような信託までも無効となりかねず、

今回の判決が実務に及ぼす影響は大きいものになります。

 

 

前回、今回と遺留分の判断における受益権の評価について

それぞれ、私なりの検討を書き留めました。

 

まだ整理できていない部分があり、

まとまりがなかったかもしれませんが

今後、出されると思われる判決に対する評釈も確認して

引き続き検討したいと思います。

投稿者: 司法書士 本多寿之

2018.12.13更新

今年9月の家族信託と遺留分に関する地裁判決について、

内容を知る機会を得ました。

 

遺留分減殺請求について受益権説をとるのか、

遺留分を侵害する信託は公序良俗違反かなど

重要な論点がありましたが、前提とも言える

受益権の評価について疑問に思う点がありましたので、

備忘録として私の考えを書き留めます。

 

※ 判決の事案は複雑なため、今回は異なる例を設定して

その設例を用いて判決でとられた(と思われる)考え方を検討します。

※ 判決が採用した受益権説を前提に検討します。

 

設例として受益者連続型信託で、

委託者兼受益者が死亡したときに

受益者となるべき第1順位の受益者、

さらに第1順位の受益者が死亡したときに

受益者となるべき第2順位の受益者をそれぞれ指定していたとします。

 

第1順位の受益者は委託者の子のAB2名で、

受益権割合はA4分の3、B4分の1です。

(委託者の相続人はこの2名のみです。)

A、Bが死亡したときの第2順位の受益者はCです。

 

ところで、受益者連続型信託で遺留分減殺について判断するのは

委託者が死亡したとき1回限りです。

 

第2順位の受益者は、第1順位の受益者から

受益権を承継取得するのではなく、

委託者から取得すると法律構成します。

 

そして、委託者の死亡時に、第1、第2の各受益者の受益権の

価格について必要な算定がされるべきものと考えられています。

(寺本昌広「逐条解説新しい信託法(補訂版)」

 商事法務 2008年 260頁(注5))

 

上の例で委託者兼受益者が死亡して、

BはAに対して遺留分減殺請求の意思表示をしたとします。

(委託者の死亡は信託設定から30年経過より前とします。)

 

このとき、第1順位のみならず、第2順位の受益者の受益権についても

評価をして、遺留分の判断をするべきところです。

 

そうすると各自の受益権は

・Aの受益権は、委託者の死亡を始期、Aの死亡を終期

・Bの受益権は、委託者の死亡を始期、Bの死亡を終期

・Cの受益権の内、4分の3はAの死亡を始期、Cの死亡を終期

・Cの受益権の内、4分の1はBの死亡を始期、Cの死亡を終期

の、始期・終期付きの権利となり、これらの合計が受益権全体の評価です。

 

 

ところが、判決のとった考え方を上の設例にあてはめると・・・

 

①信託財産の評価を受益権の全体の評価とした上で、

この評価額にBの第2順位の受益者としての受益権割合

4分の1を単純に掛けて、Bの受益権の評価とする

 

②全体の受益権の評価額とその他に

Aが死因贈与で取得する財産があったのでその価格を合計して

基礎となる遺産総額を算出して、Bの遺留分の割合4分の1を掛ける

 

③②-①をAのBに対する遺留分侵害額とし、

Aが取得した財産について減殺をする

 

仮に、信託財産の評価がそのまま受益権全体の評価だったとしても

①のように単純に4分の3、4分の1を掛けて

A、Bの受益権の評価の算定とはならないと思われます。

これではCの受益権が考慮されていません。(ゼロになります。)

 

 

このことが、実務でどのようなときに問題になるかというと、

受益者連続型信託で、委託者が財産のほとんどを信託の対象とし、

委託者に複数の相続人が存在した場合、

遺留分を侵害しないように各相続人に割合を決めて受益権を与えるときです。

 

上記の設例で、受益権をA4分の3、B4分の1の割合とした場合でも、

Cの受益権の評価を加えて算定することになれば

委託者死亡時の受益権の評価全体に対するBの受益権の評価の割合は

4分の1を下回る、つまり遺留分の割合を下回ることになります。

(一般社団法人民事信託活用支援機構 ニュースレター

伊東大祐「民事信託と遺留分についての最新の動向」2017)

 

以前から、始期・終期付きの受益権を実際に評価するのは難しく、

ですので、受益者連続型信託では

遺留分を侵害しない割合の決定も難しいと考えていたのですが・・・

 

判決でとられた考え方のように、Cの受益権の評価を考慮しなくてよければ

計算は簡単ですが、果たしてこれが適切なのでしょうか。

 

これが、判決の内容を知って疑問に思った点です。

 

判決では遺留分の潜脱を目的とした信託は

公序良俗違反で無効としていますが、

上の例でのCの受益権の評価の仕方によっては

違う結論もありえると考えています。

このことは次回に。

投稿者: 司法書士 本多寿之