事務所ブログ

2018.09.04更新

以前に3回にわたり、民事信託・家族信託に関連して

信託財産に対する強制執行について私の考えを述べました。

ブログ「信託財産に対する強制執行①~信託口口座

ブログ「信託財産に対する強制執行②~債務名義

ブログ「信託財産に対する強制執行③~預金以外の財産

 

今回は、信託財産に属する財産である預金が差押えられた場合、

第三者異議の訴えの訴状を作成したとして、主張するべき事実を検討しながら、

分別管理の在り方について考えていきたいと思います。

 

 

「専用口座」であることのみで十分か

 青い線

信託財産に対しては、信託財産責任負担債務にかかる債権(以下「信託に関する債権」とします)に

基づかない場合は強制執行ができないとされています。(信託法第23条第1項)

そして、この規定に違反してされた強制執行に対しては、受託者または受益者は

第三者異議の訴えにより異議の主張ができます。(同第23条第3項)

 

上の3つのブログ記事で検討したとおり、債権執行の第三債務者である銀行も、

執行裁判所も、強制執行が信託に関する債権に基づくものか否か判断できませんので、

いずれの場合も強制執行が開始し、信託に関する債権に基づかない場合は、

受託者または受益者が第三者異議の訴えを提起することになると考えられます。

 

そこで、信託財産に属する財産が銀行預金(預金債権)だった場合で、

信託に関する債権に基づかないにもかかわらず、口座が差押えられたため

第三者異議の訴えを提起して争うという例で検討していきます。

 

第三者異議の訴えで原告である受託者または受益者が主張する請求原因事実は

差押えられた財産が信託財産に属する財産であることを基礎づける事実、

この例では銀行預金が信託財産に属する財産であることを基礎づける事実と考えます。

 

ところで信託では、信託財産と受託者の固有の財産を分別して管理することが

受託者に義務づけられています。(同第34条第1項)

そこで、推奨されてきたのが、信託契約に「金銭は「専用口座」を開設して管理する」などと定めて

銀行で「信託口口座(例えば口座名が「委託者〇〇受託者〇〇信託口」)」を開設して

その口座で信託財産に属する金銭を管理する方法です。

 

または、口座名が受託者個人であっても、委託者と受託者で「契約第〇条の専用口座は

〇〇銀行〇〇支店の口座番号〇〇〇の預金口座とする」と書面を作成して、

受託者の固有財産と区別をするということも考えられると思います。

これらの方法であれば、見た目、口座が信託の「専用口座」であることは明らかだと思います。

 

この場合、第三者異議の訴えにおいて、信託財産に属する財産であることを基礎づける事実として

1 年月日委託者と受託者は信託契約を締結した。

2 上記信託契約において、金銭は「専用口座」で管理すると定めた。

  (甲第1号証 信託契約書)

3 上記定めに基づき、委託者と受託者は〇〇銀行〇〇支店に信託口口座を開設した。

  (甲第2号証 預金通帳)

または、

1と2は上と同じ

3 委託者と受託者は〇〇銀行〇〇支店の受託者名義の口座を、上記定めに基づく「専用口座」と

することを合意した。(甲第2号証 合意書)

という事実を主張することが考えられます。

しかし、果たしてこれで十分でしょうか?

 

 

加えて主張すべき事実

青い線

例えば、受託者が固有の債務にかかる債権者からの強制執行を免れるために

受託者の固有の財産である(信託財産に属する財産でない)金銭を「専用口座」に入金したとします。

 

受託者固有の債務にかかる債権者が預金口座の差押えをしたところ、

それがたまたま「専用口座」だったとします。

 

そこで、受託者は第三者異議の訴えを提起したとして、上記の1,2の事実を主張するだけで

「専用口座」に入金されている金銭が信託財産に属する財産と認定され、原告が勝訴することになれば

受託者の固有財産である金銭は、入金されていた口座が差押えの対象となっていたにもかかわらず

結果的に差押を免れてしまいます。

 

受託者の口座で堂々と「財産隠し」ができることになってしまいますが、

こういうことがあり得るとすると、見た目が信託財産に属する財産であっても、

中身がそうではないのではとの疑念をもたれる可能性は十分にあると思います。

 

被告(債権者)側で、口座に入金されている金銭が信託財産に属さない金銭であるという事実

(信託財産に属することに消極な事実)を主張しなかったとしても、信託財産に属する財産で

あることを「基礎づける事実」ですから、原告が「専用口座」という「見た目」のみの主張にとどまると

中身の金銭が信託財産に属するとまでは認定できず、主張が不十分で敗訴の恐れがあるかもしれません。

 

では、「専用口座」であるという事実に加えて、どういった事実を主張することが考えられるでしょうか。

例えば

4 受託者は信託事務を行い、「専用口座」に金銭を入金または出金したが、

  その事務にかかる収支及び「専用口座」に対する入出金は別紙明細書記載のとおりであり、

  明細書の残高は「専用口座」の残高と一致する。(甲第3号証 〇〇帳簿)

と帳簿で明らかにするなどの主張が考えられると思います。

 

信託法は受託者に信託財産と固有財産とを分別管理することを義務づけていると言いましたが、

信託法は金銭については「その計算を明らかにする方法(同第34条1項2号ロ)」により

管理すると定められています。

金銭を帳簿で管理する方法は、「その計算を明らかにする方法」の典型だと考えられます。

 

その一方で、信託行為(契約)に別段の定めがある場合は、その定めによるとしています。

ですので、信託契約で「専用口座を開設して管理する」と定めれば、それは別段の定めであり、

「専用口座」で管理していれば、受託者は委託者や受益者との関係において、

分別管理の義務は果たしています・・・果たしていますが、強制執行に対しては

それだけでは不十分となる可能性があるのでは、というのが私の考えです。

  

なお、「その計算を明らかにする方法」のみで金銭を管理した場合、

例えば、受託者が複数の口座で管理していたとして、

帳簿の計算上の残高がどの口座とリンクするのかが明らかでなければ、

どの口座のどの金銭が信託財産に属する財産か特定できないという問題が生じ得ます。

 

 

むすびに

青い線

くり返しになりますが、

契約書に「専用口座で金銭を管理する」と定めていても、それは内部的には構いませんが、

「専用口座」であることを明らかにした上で、さらに、入金されている金銭についても

信託事務を行うことで生じた入出金の結果であることを帳簿で明らかにする、というように

外部から見ても金銭が信託財産に属する財産であると特定できることが

第三者異議の訴えで請求が認容されるために必要ではないかと思います。

 

(受託者には帳簿等作成義務(同第37条)がありますが、上記でいう「帳簿」は

特定の口座と連動して、その口座の残高を明らかにできる程度の帳簿という意味合いです。)

 

今回は、第三者異議の訴えの訴状を作成したとして、

どのような事実の主張が必要かをイメージしながら私なりに検討しました。

ですので、あくまで私見ということでご了承ください。

 

分別管理の効果や倒産隔離機能との関係については、様々な議論がされてきています。

第三者異議の訴えについての判例の集積には時間がかかると思われますが、

それまでは、分別管理とは必ずしもリンクしない部分もあるかもかもしれませんが、

信託財産の独立性を守るために、倒産隔離に耐え得る管理方法を意識する必要がありそうです。

 

※ 「信託法セミナー2(有斐閣)」では、預金債権の帳簿上の分別管理と

 独立性の関係などについても議論されています。特に189~190ページ)

 

投稿者: 司法書士 本多寿之