前回に関連して、賃貸借のお話です。

高齢化がすすんでいるためか、
「借家人が高齢で、借家も老朽化している。
借家人が死亡したら、賃貸借が終了させて
借家を取り壊せるようにしたい」という相談を数回受けました。

まず、借家人が死亡したとき、賃貸借契約はどうなるのでしょうか?
借家人が借家を借りる権利「借家権」は
借家人が死亡しても消滅せずその相続人に承継されます。
つまり、相続人が家賃を払って借り続けることができるのです。

家賃を払ってくれるのならばまだいいのですが、
相続人から何の反応もない場合はやっかいです。
「契約解除の内容証明郵便」でお話ししたように、
解除するには、まず家賃の催促(催告)をして、
支払いに必要と思われる期間が経過してから
解除すると内容証明郵便を送るなりする必要があります。

相続人が1人ではなく数名いる場合は、
解除の意思表示は全員にする必要があります。
(民法544条 解除の不可分性)
ですから、相続人全員に内容証明郵便なり送らなければなりません。

また、相続人の一人が解除に応じた場合
新たな借家人と賃貸借契約をすることができるでしょうか?。
解除は全員としなければなりませんので、
一人と合意で解除しても、賃貸借契約は終了していません。
なので、新たな借家人と賃貸借契約はできないことになります。

このような家主からするとやっかいな問題が起こりかねないので、
高齢の借家人を追い出すことはかわいそうだとして、
死亡したら賃貸借を終了させたい・・・
こんなんことを特約として契約に盛り込んでも有効でしょうか?

借地借家法に、建物の賃貸借について
家主からの更新の拒絶、解約の申し入れは
「正当な事由」がなければすることができず、
これに反する借家人に不利な特約は無効とされています。
(借地借家法28条・30条)

「借家人が死亡したら賃貸借は終了する」という特約は、
相続人に承継されるべき賃貸借を正当な事由もなく終了させる
借家人に不利なものと言わざるを得ず、無効と考えられます。
つまり、「死亡したら賃貸借終了」の特約は意味がないことになります。l

ところで、相談者から、この場合定期借家を使えないかと言われました。
定期借家は、定められた期間が経過したら更新しないとする借家契約です。
(借地借家法38条)
しかし、定期借家は「期間の定めがある建物の賃貸借」で
「1年間」「5年間」などが期間であって
「借家人が死亡するまで」は期間の定めではありません。
やはり、定期借家も使えないと考えられます。

とすると、借家人が高齢の場合、
死亡したとき、すぐに相続人と連絡をとり交渉ができるよう
どのような人が相続人になるのか、
どうやったら連絡をとれるのかなど、
あらかじめ確認しておくことが必要かもしれません・・・

角田・本多司法書士合同事務所